January 4th, 2026
“わからない”が恐怖に… 御徒町のモスクから見えてきたのは (News Source NHK One)
“わからない”が恐怖に… 御徒町のモスクから見えてきたのは (2025 December 28th NHK ONE)
「40年住んできて、こんなにひどい言葉、言われたことない」
2025年、SNSで多く見られた「外国人」に関する投稿。
「移民に日本が侵略される」「外国人の犯罪が増える」などといった声が拡散した。
その矛先は、長年日本で暮らしてきた外国出身の人たちにも向くようになっていた。
こうした状況を変えようと、1人のイスラム教徒が選んだのは、沈黙でも、SNSでの対立でもなく、自分たちと意見を異にする人と「直接会うこと」だった。
モスクに届いた“日本から出て行け”
東京・台東区の御徒町。宝石店が並び、世界各国からの職人や商人が集まる国際色豊かな街だ。
スリランカ出身でイスラム教を信仰するモハメッド・ナズィールさんは、この街で40年近く、地域との共生を考えながら暮らしてきた。
ナズィールさん
「来日した時はびっくりしました。約束を守り、時間通りに動く、優しい日本人に感動しました」
日本の文化を理解し、学ぼうとしてきたナズィールさんのもとに、ことし(2025年)、急に攻撃的な言葉が投げつけられるようになった。
「日本から出ていけ」
届いたメールには、外国人に対するヘイトスピーチで使われるようなひぼう中傷の言葉が並んでいた。
ナズィールさん
「読みたくもないですね。こんな言葉、使ったことも聞いたこともない。今までになかったことだから、すごく悲しくなりました。投稿しているみなさんは、本当の私たちのことを知らない。私たちのやり方も知らない。イスラムのことも知らない。誰かから聞いた話で動いている」
地域に根ざすモスク
ナズィールさんたちは2007年、地域に暮らすイスラム教徒のためにモスクを設立した。
モスクは、世界のどこにいても1日5回、神に祈るイスラム教徒たちにとって、欠かせない場所。
礼拝は「食事や睡眠と同じような生活の一部であり、自らを見つめ直す大切な時間」だという。
ナズィールさん
「イスラムの教えでは、1500年ぐらい同じことを守ってきている。人を殺してはいけない、悪口をしてはいけない。裏切ってはいけない。神は見ているし聞いているので、これのどれか1つをやってしまったら、(宗教上の)大きな罪になってしまう」
来日した頃は礼拝を行う場所が少なかった。礼拝できなくなるからと外出を控えたり、人目につかない時間に公園の隅で祈ったりしていた。
モスクができてからは、モスクに来る外国人に地域で暮らす際のマナーを教えるなど、地域との共存をはかってきた。
地域で暮らす人たちは、このモスクの存在をどう見てきたのか。
私たちはそれを探ろうと、モスクの周囲およそ150メートル以内で、店舗で働く人や住民、合わせて50人に直接話を聞いた。
その結果、「モスクに反対」と答えた人は1人、「違和感がある」と答えたのは1人だった。理由は、「もともと土葬などへの拒否感がある」、「子どもの遊び場が足りなくなるのではと懸念がある」とのことだった。
そして、「問題はない」「迷惑はない」と答えたのは、50人中48人だった。
近所に住む男性
「静かですよ。騒いだりするわけでもないし、静かにお祈りして帰ってしまうから、ほとんどいたかどうかも分からない。気を使ってるんじゃないですか、きっと」
近所に住む女性
「20年近く見ているが、いやな思いというか、トラブルを感じたことがないです。モスクの近くは音がうるさいとか、寝ることができないということもないですし、夜道が危険と思ったこともないです」
ことしの秋以降、全国各地のモスク建設に反対するデモや署名活動が相次いでいた。
何が起きているのか。東京・霞が関で開かれたデモで、参加した理由を聞いた。
参加した30代男性
「家賃も払えない。子どもたちもおなかをすかしている状態で、なんでそんなに外国人ばっかり優遇するのか分からない。俺らの税金なんだから俺らをまず優遇してからじゃないかと思う」
最近デモに参加し始めた60代女性
「一番は子どもたちや孫たちに明るい未来を渡したくて参加しました。皆で声を上げているんですけど、ぜんぜん伝わらない」
参加した男性
「どんどん移民を入れるということは、結局日本なのに日本人がマイノリティーで、外国人の方、日本人じゃない人の方がマジョリティーになってしまう。そこはもう日本と言えなくなってくる」
モスクそのものよりも、政策への不満や外国人が増えることへの漠然とした不安の声が多く聞かれた。
そして、デモに参加したきっかけをたずねると、多くの人が「SNSの投稿やYouTubeの動画を見た」と話した。
急に“炎上”した御徒町のモスク
御徒町のナズィールさんたちのモスクは、SNSで大きく取りあげられるようになっていた。
ナズィールさんたちは、手狭になったいまのモスクを建て替える計画を進めていた。
それがSNSでは「モスク建設は日本侵略の拠点」、「近隣住民に危険が及ぶ」などといった話になっていた。SNS投稿は、多い日では1日10万件に上り、地域住民ではないとみられるアカウントからの投稿が相次いでいた。
ナズィールさんたちがモスクの建て替えを進めるのには理由があった。
ここ数年、インバウンド客が急増し、モスクの近くにある、浅草・浅草寺や秋葉原、それに、上野の「アメ横商店街」には多くの観光客が押し寄せるようになった。
観光で来たイスラム教徒たちは、礼拝の場所を求めてモスクに立ち寄るようになっていた。一度に300人しか入れないモスクに、多い日では800人が来るようになった。
礼拝を3回に分けて行ったり、交通の妨げにならないよう周辺に並ぶ人たちの列を整理したりしてきたが、そうした対応にも限界がある。
ナズィールさんは仲間とともに寄付を募り、新しいモスクの建設を進めてきた。
SNSでは「9階建ての巨大モスクができる」、「完全に侵略」、「女性は特に夜、絶対に近づかないで!」などといった誤解やひぼう中傷の投稿が相次ぐようになったのだ。
“外国人不安”拡散は“思考のクセ”?
実態とSNSで拡大する“外国人への不安”のギャップはどうして生まれるのか。
それを探ろうと、私たちは人間の“思考のクセ”を明らかにしてきた進化心理学の世界的な研究者、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のマーティ・ハゼルトン教授のもとを訪ねた。
ハゼルトン教授は、SNSで“外国人不安”が広がる背景には、人間が進化の過程で得た“思考のクセ”が深く関わっていると指摘した。
「自己防衛バイアス」とは、人類が身を守るために身につけた、“思考のクセ”の1つだ。
かつて自然の中で暮らしていた人類は、暗い森で正体不明のものに出くわすと、即座に「敵」だと認識して、逃げ出すか、攻撃していたと考えられている。
たとえ勘違いであっても、「敵」だと思って行動した方が、不測の事態が起きても、身を守れる確率が高まるからだ。
これが「自己防衛バイアス」と呼ばれている。
ハゼルトン教授は、もともと人間に備わるこの特性が、現代では過剰に働き過ぎてしまう状態になっていると指摘している。
ハゼルトン教授
「『自己防衛バイアス』は、いわば煙探知機のようなもので、たとえトーストの煙であったとしても、危険を見逃さないために過敏に反応するようにできています。
SNSは、その『危険を読みすぎる傾向』を刺激し続け、私たちは過剰な警戒モードでいることになります。過剰な警戒を弱めるには、不安の正体を把握し、危険ではないと理解することが役立つはずです」
誤解を解くためには会うしか
御徒町のモスクについて広がる誤解をどうすれば変えることができるか。
ナズィールさんは思い切った行動に出た。モスクに電話で問い合わせてきた、SNSでの投稿を続ける人物に「直接会って話したい」と申し出たのだ。
ナズィールさんが伝えた相手は、奈良県在住の湯浅忠雄氏。SNS投稿や、自治体や団体などへの電話での問い合わせを続けてきた人物だ。
海外で10年以上暮らした経験があり、「移民との共生は難しく、外国人に対する政策が適切なものに変わるべき」と考えているという。その投稿は、さらに過激な主張を行う多くのアカウントに引用されている。
ナズィールさんは、まずは彼にきちんと説明することから始めたいと考えたという。
ナズィールさん
「電話で話しても理解できないかもしれないし、また誤解される可能性があるから、『一度会って話してください』と伝えました。私たちのことをすごく危ない人間だと思ってしまっていると感じたので、正しく理解してもらえばこういうのはなくなると考えました」
直接会って話し合ってみると…
2025年10月21日。
複数の新聞社などの記者や、モスクの設計を行っている建築家、イスラム関連の事業に詳しい地域の専門家などが集まる中、モスクに湯浅さんが到着した。
取材陣がいることに驚いた様子だったが、「大丈夫です」と述べた。
私たちは撮影を希望しない人は映らない場所に移動してもらい、撮影、取材を行った。
ナズィールさんはまず、いま建設を進めているモスクについて説明した。
いまのモスクが手狭になっていること、場所を少し変えての建て替えであること。そして、9階建てだが、すべてが礼拝施設になるのではないことを、建築家とともに設計図を見せながら説明した。
ナズィールさん
「1階はコンビニエンスストアで、2階はフードコートです。そこに入る店の多くは日本食にする予定」
湯浅さん
「日本食?」
ナズィールさん
「そう日本食。なぜかというと、海外から来ている人たちも日本食を食べたいので」
建物には、コンビニやフードコート、語学を学ぶことができる施設や博物館など、地域の住民も利用可能な施設が入る予定だ。
礼拝施設として使うのは、通常は4階の1フロアのみで、観光客などが多く集まる日は、別の階の礼拝施設を開放し、ビルの外に行列ができないようにする計画だと説明した。
SNSで多く見られる、礼拝の音が漏れて迷惑になるのでは、という声については…。
湯浅さん
「その国なりに、郷に入れば郷に従えというのは当たり前のことですけどね。1つ要望があって、それはお祈りですね。朝6時ぐらいから、夕方6時以降にもあるアザーン(礼拝時の呼びかけ)ですね。そのあたりの配慮というのは」
ナズィールさん
「私たちは外にアザーンが聞こえるような状態にはしない。私たちの中でだけ」
さらに、ゴミの捨て方など日本で暮らす上でのマナーについても。
湯浅さん
「新しく住む人たちも来ると思うんですけどね。やっぱり日本のマナーとかルールとかも…」
ナズィールさん
「うちのモスクでは、毎日のように(日本のルールやマナーを)教えている。日本の文化や日本みたいなすばらしい生き方を学ぼうということを言っています」
湯浅さん
「教えてあげるということは、ぜひやっていただきたいなと」
話し合いは、当初の予定を延長して2時間に及んだ。
終わった直後、番組に向けた取材であると説明し、了承を得た上でその場でインタビューした。
この翌日、湯浅さんは、YouTubeに「説明に納得した」という趣旨の動画を投稿。御徒町のモスクについて、「近隣への配慮はあるようだ」とする内容を、Xでも発信した。
その一方、「御徒町モスクと他のモスクは違う」として、他の地域のモスクについては、問題視する内容の投稿を続け、12月19日時点で、合わせて500万回以上閲覧されていた。
“離れる、じゃなくて近づいて”
SNSで飛び交う言葉からだけでは、地域で起きている現実も、投稿者が抱える不安も分からない。
モスクをめぐって、直接会って行われた対話の中では、SNSでよく目にする自分の立場に固執した口論のようなやりとりとは違い、外国人に対する漠然とした恐れ、そして、地域に住む外国人が共存のために行ってきたことが、互いを尊重しながら共有されていた。

ナズィールさんはいま、まずは直接会って話をすることが大切だという考えを強くしている。
そして、ほかの地域での不安も払拭するためになにかできることはないか、考え続けている。
News Source by NHK One, uploaded on 28th December 2025 at 3:59 PM
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015014431000
https://youtu.be/fH8L4DbLJ5A?si=qRqtvkV5ZNhQhTgO


















